嘘 真琴さま 君が嘘をついた。 激しい咳き込みのあと部屋を訪ねた時、彼は微笑って言った。 「大丈夫ですよ」 そう言う顔はひどく青ざめていて・・・。 土方は思わずその儚い身体を抱きしめた。 「嘘をつくな……」 怯えたように小さく震える肩がやけに細く思える。 「嘘を…」 総司の肩口に顔をうずめて祈るように呟く。土方らしくない弱々しい呟きに、総司は細い腕をそっと土方の背に回した。 まるで土方を慰めるかのように・・・。 「大丈夫…」 土方の背に回した右手には、さきほどの咳き込みの名残り・・・。 「!」 息をつめる総司を気に止める余裕のない土方。白く細い総司の手のひらは、滲んだ哀しい現実を映す色に濡れていた。 「総司……」 あまりに気弱な声が耳に届く。と同時に荒々しく押し倒された。薄い背にあたるのは、畳と布団が半分ずつ。 どこか遠くを漂うような瞳を覗きこみ、土方は一瞬、泣きそうになった。 “嘘をつかせているのは俺だ――――” 身体が辛くないのも、苦しくないというのも嘘。 すべては総司をそばに置いておきたい土方の心を反映している。たとえ、それが総司の本意でないとしても・・・。 「すまない…」 抱きこまれ、押しよせる快楽の波に身を任せようとしている総司の耳には届かない。 耳朶を甘噛しながら、指をなめらかな肌に沿わせ土方は呟き続ける。 ほの紅い、小さな胸の飾りの奥に、許しがたい宿痾がある。 自分から総司を奪い去る病。 この病を知った時から、総司は“嘘つき”となった。笑って“嘘つき”を演じている。 その繊細な心は悲鳴を上げ、泣き崩れているというのに・・・。 「…すまない…」 着物を剥ぎ取り全身を露にし、土方から施される愛撫に触発され濡れた花蕾に己が昂ぶりをつきつける。 「あぁ…っ!」 小さな形よい唇が開かれ、意味をなさない言葉を発する。 「すまない…」 中へと侵入し激しく突き上げながら、なおも許しを乞う。 「ひじ…か…さん」 涙に濡れた瞳で見つめ甘く呼ぶ。 「だいじょ…ぶっ。私…は、へい…き…。だから…」 謝らないで、責めないで。 病ゆえの不調も、すべてにおいて自分を偽ることも、自分で選び、自分で決めたこと。 だから―――― 「…平気…」 最奥で弾ける何かが、思考を奪う。 出口を求める熱さが、何かを求め彷徨う。 「…ずっと一緒に…」 「ああ」 絶頂で交わした言葉は、あまりに端的で――――。 土方の迸りが総司の中を満たした。 そして土方は、総司の上に崩れるようにのしかかり、深い眠りの淵へと浚われて行った。 ――――どのくらい時間が経ったのか―――― 穏やかな土方の眠り顔を見つめる総司がいた。 うつ伏せて眠っていたのが悪かったのか薄い背を波打たせ、堪えようのない咳を繰り返している。 身体の奥の鈍い痛みを堪え、纏っていた白い着物を吐き出された哀しい朱の色に染めた。 (ねぇ、土方さん――――) 土方の寝顔に魅入りながら、ふと思う。 (嘘をつくことで、あなたを苦しめたくない。だけど…) こほん・・・ (嘘をつくことで、あなたのそばにいられるなら――――) 胸の奥からこみ上げてくる熱い塊を、すでに朱に染まった着物に吐き出す。 (私は、嘘をつき続けます) 襲ってきた虚脱感に従うように倒れこむ。 「こんな私は……迷惑ですか……?」 終 |