「ガトリング砲は、船倉か」
皮肉な笑みを浮かべ、さながら嵐の前の静けさの中に鎮座する艦を、遠く視界に捉えて語る圭介を見ずに、土方は応える。
互いの目線の位置は、あくまでも前方に据えられ並行にある。

『前夜』より








眉ひとつ動かすでも無く、声の調子ひとつ変えず、
榎本を呑みこんだ闇を見据えたまま告げられる言葉に一瞬息を呑んだのは、
その内容にでは無く、この土方歳三と云う男が、
自分の本質をつぶさに観察していたあまりの意外さに、
圭介自身、らしくも無く驚愕していたからだった。
「どうした?」
身じろぎを止めたまま物言わぬ主の異様を察し、
振り向いた土方が胡乱な視線を投げ掛けた。
「信じられない奴から、信じ難い事を聞いたので、驚いている」
応えた声が、少しばかり掠れたのが腹立たしいのは、
此処一番はどうしても譲れぬ圭介の負けん気だった。

『前夜より』






HOUZOU