総ちゃん
『あの・・おみくじを引きたいのです』
玄海さん
『分ってま、分ってま。気の済むまで仰山引いておくれやす』
(ぱんぱんと手を打ち、正念さんと知念さんにおみくじ箱ごと持って来させる)
総ちゃん
『あの・・でも・・』
玄海さん
『何ですやろ?』
総ちゃん
『・・・』(俯く)
玄海さん
『もしかして引いたおみくじが悪いのやったら思うて、心配してはるん?』
総ちゃん
(漸くおずおずと顔を上げ、次にこくこくと頷く)
実は『恋破れる』なんて札を引いたらと思うと、恐ろしくて手が出せないのだけれど、其処はそれ、恋する者の複雑な心理で、土方さんと自分の明日を占って、幸先の良い御宣託を授かりたいとの思いが勝っている。
玄海さん
『それやったらなんも心配することおへん』(きっぱり)
総ちゃん
『あの・・あの・・。破れるとか、待ち人来ずとか・・そう云うの、あるのかな?』
玄海さん
『安心しておくれやす。うちとこのおみくじは大吉しかおまへんのや』
総ちゃん
(驚いて瞳を瞠る)
玄海さん
『そんなん紙切れひとつで門徒減らすやなんて、あほらしいことようしまへんわ。みんな仲よう大吉ひいて、まぁるく、あんじょう一年過ごせばええのや。なあ?』
(話を振られた正念さん、知念さんが大きく頷く)
その夜。
総ちゃんの部屋には大きなおみくじ箱が。
しかも広げられたおみくじが散らばり、総ちゃんは筆で一生懸命に、そのひとつひとつに何やら書き込んでいる。
近藤先生
『総司、これはどうしたのだい?』
総ちゃん
『玄海僧正さまに貰ったのです』
近藤先生
『それは良かったが、ちゃんとお礼は云ったのかい?』
総ちゃん
(嬉しそうにこくこくと頷く)
その時、ふと総ちゃんの手元に視線を落とした近藤先生の目が驚愕に剥かれる。
其処には――
『待ち人来る』の『待ち人』に線を引いて『待ち人』にし、その横には墨蹟も鮮やかに『土方』のふた文字が・・
慌てて次の紙を見ると『難問解決す』が『土方解決す』に。
はたまた『願い事成就』が『土方が成就』に。
呆然と立ち尽くす近藤先生の目の前で、総ちゃんは次々に線を引き『土方』に書き直して行きます。
時折筆を止めては、書き直したおみくじをうっとりと見つめる不憫な愛弟子の姿に、近藤先生は、目頭に溜る熱いものを無骨な指でそっと拭いました。
返歌『手のひらに硯を乗せて紙の山』
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