土方の煩悩日記 水無月10日 最近総司が嬉々として外出する。どうやら友達ができたようだ。 監察の山崎から聞いたがあの超絶美人と茶店の床机でしるこやら 餅を食べながら延々とくっちゃべっているらしい。 あいつには昔から友達がいなかったからな。いい傾向だ。 確かにあんなツラしてりゃ皆狼になるわな。 というか・・・・・・・・何故総司は俺にあの美人を紹介しないんだ? 俺だって話をしたいのに・・・・だいたいあいつは日頃から作法というものが まるでなっとらん!! 水無月12日 総司が例の黒曜石の友達と会う日らしかったのだが、総司が風邪をひいてしまい 俺が言付けに出向くことにする。総司はガハガハ言いながら 「私が・・・・・・言いにいきます・・・・・だってせっかく約束したのに・・・・」 といっていたが、俺が 「そんな体じゃ無理だ。先方に風邪をうつすともっと失礼だぞ」 と言い聞かせようとするとすごい顔で睨んできた。それが年上の恋人に 晒す顔か!まだブチブチ言っている無理矢理総司を布団に突っ込んで、 俺は嬉々として屯所を出た。気が付いたらツーステップを踏んでいた。 いかんいかん。俺としたことがつい嬉しくて・・・・・・・・・ そのこじんまりした茶屋の床机にはあの可愛らしい黒曜石の姫が ちょこんと座っていた。俺の存在に気付いたらしく 「あ・・・・・・・」 とだけちいさな声をあげた。声まで美しかった。 「私の事、覚えておられましたか」 と副長仕様で尋ねたら、その美しいひとは恥ずかしそうに面を伏せて 「はい・・・・・・・・あの・・・・・今日は総司さんは・・・・・・」 とだけ言った。くーーーー!!!いじらしい!! 「今日は沖田が風邪をこじらせてしまい、どうしても来れなくなってしまったのです。 それで沖田からどうしてもと言われて私が言付けに参ったまでです」 と告げると(総司は俺が行くことに反対だったが 秘密主義者め・・・) 黒曜石のひとは悲しそうな表情をたたえ 「そうですか・・・・・・・・・」 と言った。ああその憂い顔がたまらない!!総司以外にこんなにときめいたのは 初めてだったから俺も嬉しくて、つい総司の風邪を喜んでしまった。 こんなことを知れれば、確実にあの世へ送られそうだが・・・・・・・・ 今は目先の幸せのほうが大切だった。 「あのっ!!それで総司さんのお風邪大丈夫なのですか?」 心底心配そうに黒曜石の人が詰め寄ってくる。 「ああ、医師についているから大丈夫です。」 俺は黒曜石のひとの肩を支えて優しく言った。 「あの・・・・・・花か何か贈りたいと思うのですけど、お届け願えますか・・・?」 少しだけ考えてから黒曜石の人はおずおずと尋ねてきた。 流石撫子!!!心遣いも良い!! 本当にうちの総司にも見習わせたい・・・・・・・・本当に・・・・・・・ ということで俺たちは近くの花屋で総司への花を選ぶ事にする。 理由はどうあれでぇとってやつだよな!うん!!しかもこんな綺麗どころと・・・・ この時の俺は嬉しくて柄にもなく興奮・・・もしたけれど涙が出そうだった。 黒曜石の姫は男慣れしていないのかはたまた初対面に近い俺に遠慮しているのか 恥ずかしそうに俯いたり視線を逸らしたりしていたが、それすら可愛かった。 「これがいいかも・・・・・元気そうな花だし」 そういって黄色の花を選んだ。確かに総司のように華やかな花だった。 「これを総司さんに渡してください・・・そして元気になってまた会いましょうと・・・・」 俺は、最期に目に付いていた紫色の菖蒲の花を何束か買い、黒曜石の姫に 渡した。初めは驚いていた姫だったが、すぐに顔が赤くなった。その様子を見て 正直に俺は「やはり心も清いのだな・・・・・・」と思った。 俺が花を捧げた理由は、下心もそりゃあ一著前にあったがやはり俺の総司の大切な 友人へ送りたかったのだ。 「総司はあんな性格ですが、貴方と知り合えて本当に喜んでいる。 これからも仲良くしてやって頂きたい。」 そう言って手渡すと、黒曜石の姫はぱあっと瞳をかがやかせて そして今まで見たことがないような華やかな微笑をみせた。 「もちろんです・・・・!!そんな事言ってくださるなんて嬉しいです・・・・・・」 と姫が言った瞬間、姫の後ろのほうで バサッと何か冊子が落ちた音がした。二人で振り向くとそこには 二人の男が居た。格好から見ると質のよい武士のように見受けられた。 一人は 「あーーあ、お前・・何やってるんだよ。オイ?どーしたんだ?伊庭?」 友人というより同僚と言った感じの男が伊庭と呼ばれた放心した男に 呼びかけつづけている。ん???????伊庭????? 俺の知り合いにもそんな男がいたような気が・・・・・・・・・・まぁいいか。 「あ・・・・・・・・八郎さん・・・・・・・・・」 黒曜石の美人が少し驚いた様子で呟いた。知り合いだったのか。 って・・・・・・・・・八郎って名前まで一緒かよ。すごい偶然もあったもんだぜ。 その八郎と呼ばれた男はまだ放心している。なんでだ? 「総・・・・司・・・・・・・・・・その男・・・・・・・・誰だ・・・?」 「あ・・・・・・えっとこの方は・・・・・・・・」 姫が説明しようとした時、同僚らしき男が叫んだ 「おい伊庭!!集合時間に間に合わないぞ!!早くしろーー!!」 と言い、まだ固まっている伊庭という男を引きずって行ってしまった。 なんだったんだ?と心底思うが、きっと俺が姫に花束を渡していて その上姫が頬を紅潮させて受け取っていてなおかつ微笑をかえしていたから 誤解したのだろう・・・・・・・・・うーーん誤解なのに。 おいしい誤解は土産に貰っておこう。しかしあの男経由で姫の旦那に 知られるとまずいな。一度見ただけだが、あの御人はなんとなく 好感が持てたからな 姫は優しく微笑んで 「総司さんによろしく・・・・・・・」 と言ってお辞儀をして帰っていった。 総司と出会うより前に出会っていたら俺もきっと・・・・・・・・・ そう思うとなんとなく心が暖かくなった 総司は相変わらず帰ってもブチブチ言っていたが、姫からの花束を 嬉しそうに胸に抱えていた。なんとなく見ていて総司の心にこれだけ 影響を及ぼすあの姫にも嫉妬したりする俺がいる。 この嫉妬癖もなんとかしないといけねぇな・・・・・・・・・・・・・ 水無月14日 なんとか体調が回復した総司が「ちょっと出てきます!」 といって飛び出していった。全く・・・・・・・・・・・ 帰ってきた時には嬉しそうな顔をした。なんとなく怪しいと 思った俺は問い詰めようかと思ったがやめておいた。 時には見守るのも夫の勤めだしな!! しかしあの顔は・・・・・・・姫に会って来た顔じゃないな・・・・・ ううむ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 水晶の文庫 |