総ちゃんのシアワセ4♪



八郎さんはづかづかと縁から上がり込むと、田坂さんとは反対側に来て総ちゃんの横に座り込みました。
土方さんは横を向いたまんまです。
『何を話していたんだえ』八郎さんは田坂さんに聞きながら、さりげなく土方さんの仏頂面をみることも忘れませんでした。
『土方さんが「ひとつ覚え」ということを指摘したまでさ』田坂さんは総ちゃんの袷から微かに見える『土方印』を指差してさらりと応えました。
『そりゃそうだろう。この人はこうみえても単純明快な質だからなぁ』と、何か含んだように、くすりと笑いました。
『俺のどこが単純だっ』土方さんは八郎さんに掴みかからなんばかりに怒鳴りました。
総ちゃんはもう、三人に囲まれて蒼白な顔をしてオロオロしています。
『別にぃ』八郎さんはまたにやりと笑いました。
『総司、俺がもっとキモチよくて楽しい人生を教えてやるよ』八郎さんは総ちゃんに『土方基準』許容範囲をとっくに超えてくっつこうとしました。
『いや、お医者さんの俺の方が断然上手いよ。いっつもこんな「単純作業」の繰り返しじゃ飽きちゃうだろう?』田坂さんはちらりと土方さんを横目で見ていいました。
『・・でも、これでいいから』総ちゃんは土方さんの名誉を挽回するために、顔を真っ赤にしながら、一生懸命に大きな声でいいました。
『お前、それは不幸と言うのだえ』間髪をおかずに八郎さんが情なさそうに言いました。
『知らぬが幸いっていうけれど・・・これじゃぁ・・』田坂さんは、ふりふりと頭を振りながら溜息をつきました。
そんな二人の酷評などどこ吹く風。
総ちゃんの愛の声援を受けて、『総司がそこが一番キモチ良いって言うんだからしょうがないのさ。悔しけりゃ本人に聞いてみな』土方さんは思いっきり胸を張って言うと、屯所中に響く高笑いをしました。
総ちゃんはもう恥ずかしくて恥ずかしくて、ついにお布団を被ってしまいました。
『そりゃお熱いことで』八郎さんは、土方さんの富士山よりも高い大自慢も聞えぬように、袂から扇子を取り出しました。
『こうあてられちゃぁ、今日は引き下がる他ねぇよなぁ』八郎さんは土方さんに爽やかに笑いかけて扇子をはたはたと煽ぎはじめました。
『伊庭さん、扇子の柄ヘン』田坂さんが如才無く突っ込みを入れました。
『おう、これかぇ?「川柳」を特注で染めさせた洒落ものよ』八郎さんは、ぱらりと扇子を全部開きました。
『うぐいすやはたきの音もついとめる・・?』田坂さんは大きな声でひとつひとつ言葉を区切って読みました。
『ちょいと捻りの足りない「川柳」だけどよ「単純」なところが江戸好みって奴よ』
けたけたと笑う八郎さんの声をお布団の中で聞きながら、総ちゃんは恐ろしさに震えていました


おあとがよろしいようで♪





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