総ちゃんのシアワセ♪5



総ちゃんは土方さんに左の手にお団子の串を握らされると、ちょっとだけ嫌な顔をしてしまいました。
何故って毎日毎日お団子で、さすがに飽きてしまったからです。
その総ちゃんの不満な顔を土方さんは見逃しませんでした。
『総司、団子が嫌なのか』むっとして土方さんは言いました。
『嫌じゃないけど・・・』総ちゃんは土方さんが怒ってしまったと思って哀しくなってしまいました。。
『団子団子じゃ飽きるに決まっているよなぁ』
またまた中庭から八郎さんがやってきました。
『お前、用も無いのにくんなっ』土方さんは露骨に、どっか消えろ、という顔をしました。
『用はあるぜ。たっぷりとな』八郎さんは、にやりと笑いました。
総ちゃんはどきどきしてしまいました。
何故かというと、八郎さんが土方さんを怒らせると、総ちゃんは必ずその夜『土方印』を体中に刻まれて次の日がとっても辛いからなのです。
八郎さんは両手を少し上に上げて、ぱんぱんと手を打ちました。
するとこれまた中庭から風呂敷包みに包んだりっぱな五段重ねの重箱が運ばれてきました。
土方さんは咄嗟に『風呂敷の模様』に目をやりました。どうも八郎さんの持ち物には敏感になっているようです。
とりあえず普通の唐草だと分かると、内心ほっとしました。
けれど絶対に顔には出しませんでした。それが男の矜持だと土方さんは思っているからです。
『団子じゃ治るものも治らねぇよなぁ』と、ちらりと土方さんにイヤミな視線を送ると、八郎さんはいそいそと風呂敷包みを解き始めました。
総ちゃんが手伝おうとすると、そっとその手をつかんで、『無理をしちゃぁいけねぇよ』と優しく握ることも忘れません。
こういうことは場数をこなしている八郎さんです。ソツというものがありません。
土方さんは、またひとつこめかみに筋を立てました。
でも必死で「余裕の顔」をしなくてはならないと自分を押さえました。
お重の蓋をあけると、それはそれは綺麗なご馳走がならんでいました。
お団子ばかりで飽きていた総ちゃんは、本当はそれをとても食べたいと思いましたが、そっと土方さんの顔を見ました。土方さんは青い筋を刻みすぎて今にも血が噴出しそうな顔をしています。
きっと総ちゃんがお弁当をおいしそうだと思ったのが分かって怒っているのです。
総ちゃんは泣きたくなってしまいました。そうすると、涙がひとつ零れてしまいました。
『総司どうしたんだえ?』八郎さんは抱きかかえるようにして総ちゃんを心配して覗き込みました。
『どけいっ』遂にキレてしまった土方さんが、八郎さんを押しのけました。
『総司、俺の団子とこいつの弁当とどっちがいいんだっ』土方さんは鬼のような顔をして総ちゃんに迫りました。
総ちゃんは困ってしまったのと、土方さんが怒っているのが哀しくて、涙がぽろぽろ止まらなくなってしまいました。
『総司、可哀相に・・・』八郎さんは心底辛そうに、総ちゃんの泣いている様子を見ていましたが、はたと気がついたようにお弁当の他のもうひとつの風呂敷包みを解いて、なにやら紙を一杯取り出しました。
『ちょいと固いから俺がくしゃくしゃにして柔らかくしてやるよ。これで鼻をかむといいぜ』と言って、風呂敷に入っていた紙を手でまるけて柔らかくしたのを総ちゃんに渡しました。
それには何やら文字が書いてあります。総ちゃんは赤いお目目で八郎さんを見ました。
『案ずるな。これは土方さんがどこぞの女達から貰った付文だ。江戸に送ったってことはもう要らないんだろうから、思う存分涙を拭いて鼻をかむがいいぜ。なぁに、弁当を食った後の手拭きに使うつもりで持って来たんだ。気にすることはないぜ』
八郎さんは言っている間も、せっせと紙を総ちゃんの為に柔らかく揉んでいます。
『それにしても土方さん、貰った恋文を実家に送りつけるってのも洒落た遊びだねぇ』と、総ちゃんの鼻噛み用を作る為に、一時も手を休めず、とっても嬉しそうな八郎さんです。
総ちゃんは涙も枯れ果ててぼんやり土方さんを見ると、土方さんは埴輪(はにわ)がひび割れたような顔をして固まっていました。

おあとがよろしいようで♪





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