総ちゃんのシアワセ♪7



土方さんは板戸の向こうにいる八郎さんが気になって仕方がありません。
もしかしたら総ちゃんのつるつるの白いお肌を覗き見しているかもしれないと思うと気が気ではありません。
それでせっかくのシアワセなときを止めちゃうのは勿体無いと悩みましたが、八郎さんに総ちゃんのお肌を見せるのは、近藤さんと伊東さんが仲良くするのよりもずぅうう〜〜とイヤだと思ったので、総ちゃんの背中を洗う手を止めました。
『総司、今日は終わりだ』自然と声も不機嫌になります。
総ちゃんはさっき八郎さんの事をすごいと思ったことを、土方さんが怒っているのだと思って哀しくなりました。
でも土方さんは総ちゃん基準でゆくと誰よりも強いのです。それを一生懸命伝えようと思いました。
『土方さん、あのね・・』振り向いたとき、土方さんは八郎さんばかりを気にしていたので、総ちゃんから顔を背けて板戸を見ていました。
総ちゃんは土方さんが本当に怒ってしまったのだと思いました。
いつの間にかぽろぽろと涙が零れてきます。それでも土方さんは気がつきません。
総ちゃんは右手にぐるぐる巻かれた晒で、ひとりで涙を拭きました。
『総司、風呂からあがるぞ』土方さんは命令するように言いました。総ちゃんはしょんぼりと頷きました。
『おい、伊庭、お前そこどけっ』土方さんは、ものすごく大きな声で怒鳴りました。
『短気な人だね、あんたも。はいはいどくよ』八郎さんの楽しそうな声が聞えてきます。
総ちゃんはそれを聞くと、心臓がどきどきします。何故って八郎さんがこんな声を出すときは決まって土方さんに何かしようとしているからです。
土方さんは板戸をそぉ〜と開けて八郎さんの姿が無いのを確かめると総ちゃんを抱っこしてお風呂をでました。
総ちゃんは土方さんに抱っこされて、少しシアワセな気持ちになりました。
土方さんが総ちゃんの身体を拭くものを探していると、白い手ぬぐいが山ほど積んであります。はてな?と思ってみていると、八郎さんの『俺の差し入れだよ、使ってくれろ』と声が聞えました。
土方さんは、真っ平だ、と思いましたが、生憎他にありません。
総ちゃんは、くしゅん、とひとつくしゃみをしました。土方さんはしょうが無いのでそれを使って総ちゃんをふきました。
土方さんは総ちゃんをまたまた抱っこしてお部屋に連れてゆきました。
総ちゃんはやっぱりシアワセだな、と思って嬉しくなってしましました。
お部屋に戻ると八郎さんが、総ちゃんのお布団の横に自分の家紋を染め上げた座布団を三枚敷いて待っていました。いつの間にか指定席を作っていたようです。
『総司、風呂は気持ち良かったかえ?』お風呂あがりで、ほんのりいい匂いのする総ちゃんのほっぺにくっつかんばかりに擦り寄って八郎さんは言いました。しっかり片手を握る事も忘れません。マメな御曹司です。
『おいっ、くっつくな』土方さんが怒鳴りました。
『柔肌にさっきの手ぬぐいはチョイト固かったかもしれねぇなぁ・・』八郎さんは土方さんのことなど見えて無いように総ちゃんの肩を抱きました。
『伊庭っ、この野郎』土方さんは八郎さんにつかみかからんばかりに身を前に乗り出しました。
八郎さんは総ちゃんを抱いた体ごと、すいっとそれを交わしました。
総ちゃんはもう一度、すごいっ、と思いましたが、すぐにそれを土方さんの為に一生懸命、すごくない、という顔にしました。
『なぁに、あの手ぬぐいは俺が目録を受けた時に祝いに作らせたものだが、すぐに免許皆伝になっちまったから余っちまったのさ』八郎さんは、けたけたと笑いました。
総ちゃんはとても恐ろしくなって土方さんを見ると、土方さんは近藤先生が伊東さんと仲良くしている時よりも、山南さんを誉めた時よりも、何百倍も青筋を立てています。それがぴくぴく動いて今にも切れてしまいそうです。
土方さんにとって「免許皆伝」は禁句なのです。
総ちゃんは土方さんが血管が切れて死んでしまうと思って慌ててしまいました。
『八郎さん、あのね、土方さんはね』必死に土方さんは強いのだと言おうとすると、八郎さんは握っていた総ちゃんの指をとって、なでなでしながら言いました。
『総司、肌さわりが悪い手ぬぐいで堪忍してくれろ。あれは女だけにはやたらと手が早い土方さんが十七の歳に、奉公先の女に手をだしてしくじっちまった店から木綿を買って作らせたんだが・・いや、どうも織が荒くていけねぇ。痛かったろう?可哀想に』
八郎さんは総ちゃんの手を労わるようにそっと握りました。
総ちゃんはなんだかすごく哀しくなってしまいました。
するとぽろっとひとつ、止まっていた涙が零れ出しました。
うつろな目で土方さんを見ると、土方さんは口を「あ」の字にして一人で時を止めていました。


おあとがよろしいようで♪





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