髪 真琴さま 「ずいぶん伸びたな」 中空に浮かぶ月を見ながら、肩に凭れる総司の頭を撫でる。 結い上げることもなく下ろされたままの髪にそっと指を絡めた。 半月前、総司は土方から冷静さを失わせるほどの血を吐いた。 幾日も生死の境を彷徨い、目覚めてからも高熱に喘ぐ日々を送っていた。 ようやく熱も下がり少しずつ元気を回復しつつあったが、失われた体力は戻ることもなく、日のうち半分は横になっていることが多くなった。 気分がいいから、と土方の月見につきあうと言い出した総司。 だが一人で座るにはあまりにも頼りない彼を、土方は自分の肩に凭らせることで納得させた。 “生き生きしているのは髪と子どものような瞳だけだ” そんな感傷に囚われた土方は、それを振り切るかのように、 「ずいぶん伸びたな」 と呟いた。 「そりゃ上洛以来一度も切ってないんですから伸びもしますよ」 明るい総司の声が胸に痛い。 上洛さえしなければ…… 無理にでも江戸へ残していれば…… 総司はこんな病を背負いこむことはなかった―――― 上げればキリのない後悔ばかりが浮かんでくる。 そんな土方の心を読んでいるのか、 「後悔なんてしないでくださいよ」 総司は小さなため息と共に呟いた。 「……」 「今思ったでしょう?連れて来なきゃよかったって」 「……っ…」 「思うんですよ。もし江戸に一人で残されたら、きっと…寂しさのあまり死んじゃってたんじゃないかって。土方さんのいない場所なんて……意味ないですもん…」 一世一代の告白ですよ?と降り注ぐ月明かりの中で悪戯っぽく呟く。 「……」 土方は何も言わず、壊れそうな肩先を抱く手に力を込めた。 ふと見ると、総司の表情がひどく穏やかなことに気づく。 「おまえは罪がねぇな」 2人でいるときにしか見せない柔和な表情で、肩に頭を預ける総司に呟く。 「こうしてるだけで…幸せですから……」 見上げる月の美しさとか、頬をかすめる風の心地よさとか、……土方さんの温かさとか…。 それだけで満足なのだと、この無欲な想い人は言うのだ。 背負ってしまった苦しみを、ありのままに受け入れるこの強さは……。 ふいに込み上げてきた涙を隠すように強引に総司を膝の上に乗せた。 土方に背中を預けて、されるがままの総司の首筋に顔を埋める。 ぴくん、と小さく反応する総司。 首筋に唇を押しつけ花びらを散らす。 背後から抱きしめられて目を閉じて口づけを受ける総司の唇に辿りつく。 「ん……」 啄ばむような口づけを与えると土方は唇を離し、目の前にある小さな青白い顔を見つめた。 本当はこのまま抱いてしまいたい。 だが今無理をさせれば、総司の身体が保つわけがない。 「…抱いて、ください…」 「!」 総司はまっすぐに土方を見つめている。 「無理だ。できねぇ」 啄ばむような口づけにさえも息を乱している総司が、身体を繋げる衝撃に耐えられるわけがない。 今はただ、こうして静かに互いの体温を感じていればいい。 ――――そう、思っていたい 身体の重みも、心の弱さも、すべてこの腕に収めて、抱きしめていられれば―――― 行為を続けようとしない土方に諦めたように総司は広い胸に、再びその頼りない背を預けた。 着物の上からでも分かる総司の温もり。 土方は総司が音を上げそうなほどに強く抱きしめた。 埋めた顔を掠めるように、黒髪が風に揺れる。 月明かりに揺れる髪は、まるで甘えるように土方の頬を撫でる。 その髪にゆっくりと口づける。 胸に感じる背が急に重くなった。 総司は眠ったようだ。 小さな寝息が聞こえる。 その眠りを守ろうと、ゆったりと抱き直した。 子どもの頃とたいして変わらない穏やかな寝顔。 ふっ、と笑った息でその耳元に呟いた。 「愛してる」 終 ありゃりゃのりゃ? こんな話…あり?私らしくない静かな話だったわ(^^;) こんなつもりで書いたワケじゃ……。 いやぁ…予定は未定… 見切り発車どころか、右も左も後ろも、前さえ見ないで走り書きを始める真琴ならではの支離滅裂話…。 どーか皆様、こんな真琴を見捨てないでやって下さい。 ちいさん…UPなんてオコガマシイことは言いません。せめてちいさんのPCの隅っこに置いといて下さい。 宝 蔵 |