宴 -utage-  (中)





「キヨさん、痛いっ」
髪を強く引っ張られて、総司は思わず訴えた。
「あ、堪忍どっせ」
口ではそう言いながら、束ねた髪を結うキヨの力は緩まない。
総司は瞳に涙を滲ませて、それに耐えている。

今朝土方から、今宵島原に例の打ち合わせどおり上がると聞かされた。
土方は手回し良く総司の支度をキヨに頼んでいたらしく、昼をとったら田坂の処に行くようにと告げた。
支度が出来た頃に、八郎が迎えに来る筈だった。
すべては自分の意志と全く関係なく進むこの話に、総司の憂鬱は尽きない。


「キヨさん・・・」
引っ張られる痛みに眦(まなじり)に溜まった涙を手の甲で乱暴に拭いながら、髪を結う作業に没頭しているキヨに総司は声を掛けた。
「もうちょっとの辛抱どす」
必死のキヨには総司の言葉も届かないようだった。
「私が女の人の格好などしたら、絶対に可笑しいと思う・・・」
不満気な小さな声に、やっとキヨが総司を見た。

「何を言うてはりますのや。沖田はんよう似合うてますえ。そやさかい、キヨも腕に力がはいりますのや。ああ、ほんま綺麗で可愛らしゅうおすなぁ・・」
キヨは鏡に映る自分の作品にうっとりと呟いた。


だが総司は鏡を見ることができない。
映っているのは自分では無いと思う。
肌にほんのうっすらとはたかれた白粉も、紅に彩られた唇も、異質なものの感触が気持ち悪い。


「ほんま、綺麗やわぁ・・」
キヨの賛辞はすでに陶酔の世界に入り込んでいる。
総司にはそれが分からない。ただ情けないのと痛いのだけが今の思いの全てだった。

そんな総司の思惑などキヨに分かる筈が無い。
鏡に映る総司はまるで息をしていない人形のように儚げで、触れることすら憚(はば)かられる。
あたかも健康そうなふっくらとした頬は無いが、俯いた横顔は繊細に細工されたぎやまんのような品がある。
露になった項(うなじ)の細さは、見て入る者に結い上げた髪の重さすら痛々しく思わせる。
キヨはもう幾度目かの溜息をついた。

「・・・・もったいない」
キヨが漏らした呟きは、無意識のものだったらしい。
その証拠に総司が何がもったいないのかと不思議に見上げても、キヨの視線は鏡の中に縫いとめられたまま、総司を見てはいない。



キヨは思う。
もしも若せんせいが総司と添い遂げることができたら、どんなに自分の毎日は楽しいものになることだろう。
総司が男だろうが、やや子を生めないだろうが、もうそんなことはどうでもいい。
時々こうして紅を差して、自分が見繕った反物で拵えた着物を着てもらおう。
総司は優しいから、キヨの一生の願いだと頼み込めばきっと嫌だとは言わないだろう。

そうして大先生や奥様の墓参りに連れてゆこうと思う。
きっと菩提寺の住職は目を丸くするに違いない。
あそこの住職の奥方は嫁を大層な家柄から貰ったのだと自慢の種にしていた。
いつも行くたびにその話しを聞かされてうんざりしていたから、今度はこれがうちの嫁ですと言ってやればどんなに胸がすくだろう。
今の総司にはどんなおなごも敵わない。

そうだ、夏になったら浴衣も用意しなければならない。
透けるような白い肌には藍の色が良く映えるだろう。
そうして若せんせいと三人で夕涼みに出かけたら、きっと人目を引いて気分がいい。
「一度きり」と言わなければ「一生の願い」は幾らでも使える。

鏡の中の若せんせいの嫁の姿に心を奪われたキヨの妄想は、すでに止まることを知らない。



「・・・ほんま、もったいない」
「何がですか・・?」
キヨがまた同じ事を呟いたが、総司は皆目検討が付かない。
「土方はんにはもったいない言いうとりますのや・・」
ぼんやりとうつろな心のまま、キヨは応えた。
が、一瞬にして総司の項と言わず、頬と言わず、体中が朱に染め上げられた。
その恥じらいすら、見ている者には鮮やかにして艶やかな変化だった。


「ほんまになぁ・・・相手がうちの若せんせいだったらどないにええやろ・・」
キヨの声を聞きながら、心の臓の音が辺りに響くかと思われる程に大きくなる中で、総司は必死に冷静になろうとしている。
キヨは芝居の見合いの相手の事をきっと言っているのだ。そうに違いない。
だからこんなに狼狽したら返って不自然に思われる。
下を向いたまま膝の上の手を握りしめて、総司はどうにか自分のうろたえぶりを抑えようとした。



「・・・・へぇ、綺麗なものだな」
こんな時に又も今の自分の姿を見られたく無い相手が、すらりと障子を開けて入って来た。
「そうどすやろ」
キヨの声が一層弾んだ。
キヨの自慢の若せんせい田坂俊介は、総司の前に回って腰を下ろした。
総司は遣る瀬無い溜息を、分からないようにそっとついた。


小さなときから試衛館で道場を掃除する時には、必ず神棚に手を合わせていた。
なのにいざとなれば神仏はこんなにも無慈悲だ。
自分の拝み方が足りなかったのだろうか・・・
それを差し引いても、今の状態は情けなくて恨めしくて、哀しくなってくる。


「なぁ、綺麗ですやろ。その辺の娘さんが束になってかかって来はっても負けしまへん」
キヨの語尾は強い。絶対の自信に溢れている。
束になって掛かってこられても自分は男だから困ります・・・とは総司はもう言う気力も無かった。

「俺も一緒に行こうかな」
俯いたまま顔を見せようとしない総司に、田坂が誰に言うとも無く呟いた。
その言葉に、思わず顔を上げて瞳を大きく瞠った。

冗談では無いと思う。
だが田坂はそんな総司の抗議の眼差しをまっすぐに受けて、そのまま刻(とき)を止めて見入ってしまった。

驚いたように見開かれた切れ長の目の中にある黒い瞳も、朱に彩られて呆れたように少しだけ開かれた形良い唇も、一日鑑賞していろと言われれば飽きずにしていられる。
これを暫しの時でも、あの二人の恋敵のものにしておくには勿体無い。
否、とんでもない事だ。

田坂は衣桁にかけてある絹織物にちらりと目をやった。
それは白地にほんのりと淡い紅で梅の花を散らして染め上げた振袖だった。

「あれを着てゆくのだろう?」
「そうどす。きっとお似合いにならはります」
キヨは太鼓判を押した。


キヨはこの話を聞いてすぐにこれを注文した。
勿論土方からの依頼で、金に糸目はつけないが至急に調達して欲しいという事だった。
反物を選んで三日で仕上がったにしては丁寧にできている。

田坂は暫し考える。
これを身に着けて最後に帯を締めた総司の立ち姿を想像したら、余計に恋敵どもの邪魔をしてやりたい。


「やはり俺も行こう」
それが己に課せられた使命のように、田坂がきっぱりと言い切った。
「それがええですわ」
キヨが満足そうに大きく頷いた。
もうキヨの頭の中には凛々しい若せんせいに控えめによりそう、儚げに美しい嫁の姿しか浮かんでいない。

「困ります・・これは仕事で、近藤先生の・・」
「だから俺が行くのだろう。土方さんと見合いをするのに、町医者の俺が君の介添え人と言えばより自然だろう。伊庭さんは土方さんの介添え人という事にしておけばいいさ。君も近藤さんの為に何とかその長州の大物とかいう奴の尻尾をつかみたいのだろう?」
総司は一瞬言葉を呑みこんだように動かなかったが、やがて小さく頷くと、そのまま先ほどよりもずっと深くうな垂れてしまった。


勝手に決めた筋書きに、田坂は悦に入ったように頬を緩めた。
自分は介添人なのだから常に総司に寄り添っていてやらねばならない。
邪魔な伊庭は、これまたもっと邪魔な土方に付けておけばいい。
出遅れた分どうにも損な役回りが多かったが、ようやく此処に来て状況は上手い方向に廻り始めたらしい。



日が傾き始めた縁に出て、田坂はまだ堅い桜の蕾を見上げた。
今年は普段にも増して温かい日が続いている。
花が綻ぶのも案外に早いのかもしれない。

田坂俊介、夕焼けに染まる空に飛ぶ烏の啼く声さえも今は心地良い、人生至福の時であった。






「用意は上手い具合にできているのかえ?」
八郎はひと足先に上がっていた座敷に梅香を呼び寄せると、その首尾を確かめた。
「ぬかりはありまへん・・・けど・・」
「けど?」
「ほんまに土方はん来はりますのやろうなぁ」
「俺を疑うというのかえ」
梅香は八郎に向かって、応えを返さず微笑んだ。

すこしばかり自分を責めるような物言いをして低く笑う八郎も、土方に負けず劣らずいい男である。
土方には恨みも未練もまだ十分にあるが、実のところ梅香は先日の出会いからこの伊庭八郎という男にも心を奪われている。

「伊庭はんを疑ってなどおいやさしまへん。五人程誘ったら今晩の座敷に来る言うてましたわ」
「では賑やかな座敷になりそうだな」


自分の指に絡めてくる梅香のそれを一応の礼儀として軽く握ってやりながら、実は八郎は心裡で面白く無い。

というのも総司を迎えに五条まで出かけようとした時に、その田坂から使いが来た。
文には自分が見合いの介添え人として総司を島原まで連れて行く、ついては伊庭殿は土方殿と来て欲しいと記されていた。
ついでにその方が自然だろうとも、ご丁寧に書き添えられていた。

半端ではなく面白くなかったが、この茶番の本当の筋書きは自分が握っている。
事が成就するまでは独り暴走はぐっと堪えねばならない。
近い将来の我が世の春を思えば、田坂の言い分を呑んでこの際目を瞑る事にした。

にしても土方と同道だけは真っ平だと思った八郎は、その事を伝えずさっさと自分だけ島原に来ている。



「お連れの方が見えはりました」
襖の外で可愛らしい声がした。太夫付きのかむろだろう。
八郎は咄嗟に梅香の指を外した。


「なんだあんたか」
だが襖が開かれた瞬間に、八郎は又視線をさっさと元あった方に戻してしまった。
「いや土方はん、お懐かしゅう・・」
梅香は心底嬉しそうだった。声に湿ったものまで感じさせる。
女心と秋の空とは良くも言ったものよと、八郎は心裡で独りごちてみる。
「最近何かと忙しくて不精を決め込んでいた」
土方は梅香に適当な愛想笑いを投げかけて、室の中を見回した。

「客ならまだだよ」
土方を見ないまま、それを気配で察して八郎が応えた。
「お前がつれてくると言っていたではないか」
どうにも突っかかれずにはいられない、憮然とした土方の声だった。

「仕方が無いだろう。相手の支度が遅れてるから先に行ってくれってんだから」
だいたいが田坂の一方的な筋書き変更に腹を据えかねている八郎の口調も、素っ気無いことこの上無い。

「まあ、お相手はんもじきお越しやすやろ。それまでうちらがお相手ではご不満どすか?」
梅香の声音だけが妙に楽しそうである。
「あんなぁ、下に行って呼んできてきや」
横にちんまり行儀良く座っていたかむろに言いつけると、梅香は土方と八郎の微妙に距離を置いた間までにじり寄った。

「さぁ、土方はんも伊庭はんも受けておくれやす」
先まで白粉を塗った白い指が、ふたりの男に盃を持たせた。



(両手に花やわ・・・)
男二人に挟まれながら、梅香は今残りの女達を呼びに行かせた事を後悔し始めていた。

これから現れる土方の相手がどんなに念入りにめかしこんで来ても、負けない自身はそこらへんの山より高い。
むしろ相手の努力が哀れにも思える余裕を持っている。
今日の為にここ数日、どれほど自分を磨く事に精を出してきたか知れない。
そして梅香は知った。
女をより美しくするのは他の女に対する敵愾心が一番なのだと。


「おおきに」

そんな事を思っていた時に、つい舌打ちしそうになるような女達の声が梅香の耳に届いた。
開けた襖の奥から静々と入り込んでくる女達を、ほんのり唇の先だけに笑みを形作って迎えながら、梅香の頭の中はもう土方の相手の事だけで占められていた。





「お連れはんがお越しです」

どの位たったのか、むっつりとした土方と八郎がもてなし上手な女達に囲まれて、適度に相好を崩し始めた頃、またも聞きたくない無粋な声がした。
それに座敷に居た全ての人間の動きと顔の表情が止まった。

ついに来るべき時がきた。
戦いは始まったのだ。
梅香は自分に気を入れなおすように、帯を指で叩いた。



「待たせてしまいましたか」
田坂が口先だけで、少しも恐縮の素振りを見せずに先に入って来た。
「田坂さん、遅かったではないか。で、お相手の方は?」
わざとらしく応えを返しながら、八郎は目的の姿を探した。
田坂の後ろに隠れて顔は見えないが、入るに入られず戸惑うように立ち尽くしている、ほっそりとした人影がある。
紛れも無い総司だろう。
想い人の姿は例えそれがどんな格好をしていようが、見間違える筈がない。


「申し訳ない。実はこちらに来る前に少し具合が悪くなってしまい・・・さぁ入らせて頂こう」
庇うように総司の背に回した、田坂のさり気ない手が固ずを呑んで見ている土方の癇癪を誘う。
だが土方の思惑など関係なく、誰もが今襖の間から現れる人間一人に注がれている。



おずおずと足を踏み入れた途端、一斉に漏れた感嘆ともつかぬ溜息も、総司の耳には届かない。

顔など上げられるはずが無かった。
総司はできればこの場から逃げ出したい思いを今必死に堪えている。
いっそ気分が悪くなったと田坂に訴えてみようかと思ったが、実はその手はさっき使って容易く嘘だと見破られて失敗に終わっている。
流石に近藤の見込んだ医者だけあった。


キヨが髪を結い終わり、最後に着物を着付けてもらったとき、帯のあまりの苦しさに悲鳴を上げた。
「これでは息ができません・・」
懇願するように帯を解いて欲しいと言う総司に、キヨはすぐに慣れます、と一言つれない返事を返しただけだった。
キヨはもう総司を如何に綺麗に仕上げるかに没頭して他が見えないようだった。

それでも段々に出来上がってゆく鏡の中の自分で無い自分に、とうとう嫌気も限界が来た。
土方に怒られても、近藤に叱られても、どうしてもこの格好で外を歩くのは嫌だった。
総司は最後の手段とばかりに、横で楽しげに眺めていた田坂に潤んだ瞳で訴えた。

「田坂さん、気分が悪い・・・」
「すぐに治るよ。帰ってくる頃には」
田坂の応えも呆気に取られる程簡単なものだった。
総司は初めてもうどこにも逃げ道は無いのだと、絶望の淵に突き落とされた。




田坂に軽く背を押されて慣れない足取りで進んだ座敷の明るさは、ずっと伏せていた目には眩しく、思わず総司は顔を上げて瞳を細めた。

が、又も無言でどよめいたその場の気配に怯え、すぐに田坂の後ろに隠れるように身を引いて俯いてしまった。


八郎は暫し瞬きすることも忘れて、そこに立つ総司に視線を縫いとめていたが、すぐに見事な素早さで立ちあがると、ふたりの前まで歩み寄って行った。
土方は絶句したまま、この二人に今の総司の姿を見せた事を、伊東を新撰組に入れたことよりも遥かに深く後悔したが、瞬時に総司を連れて帰る算段に頭を働かせた。

・・・・・そして梅香は唇を噛んだ。


「ひゃぁ、お人形さんかと思いましたえ」
「ほんま、綺麗なおなごはんどすなぁ。息してはらへんみたいやわ」

女達の賛辞の言葉には棘だけが刺さっている。
現に目は据わったようにきつい。
姉のみつに叱られた時も、こんなに恐ろしい思いをしたことは一度もなかった。
総司は何故こんなに怖い視線を浴びせられるのか分からず、又うな垂れた。

土方の心も時々分からないが、女の人の心はもっと分からない。
もうずっと前にそんなことを近藤に言ったら、お前はまだ分からなくても良いと言われて以来その思考は素直に置き去りにしてある。
やっぱりあの時にちゃんと聞いておけばよかった。

・・・・後悔は常に先に立たない。



「いや待った甲斐があった。こんなに綺麗な娘さんを紹介して頂けるとは、田坂さんにも礼を言わなくてはならない」
八郎は田坂に感謝の気持ちなど薄っぺらな欠片のひとつも無い言葉を掛けながら、視線は総司だけを捉えている。
「いや礼は事が成就してからの話。まだ気に入るかどうか・・・」
それに応えを返しながら、さり気なく八郎から総司の身体を遠ざけた。


「気に入らない筈が無い」

いつの間にかすぐ傍まで来ていた土方の、唸るような声だった。
その声だけに、総司が縋るような瞳を向けた。
だがすぐにたじろいで、視線を逸らせた。

土方の声が怒っている。
あんなに怖い顔をしているのは見たことが無い。
もしかしたらこんな自分に愛想が尽きたのかもしれない。
いくら土方の言うこととはいえ、聞いた自分が愚かだった。
総司はやりきれない情けなさで、思わず視界に滲んだものを目を瞬いて誤魔化した。


「気に入る、気に入らないは、あくまでもこちらの話。こればかりは土方殿おひとりで決める訳には・・・」
そうだろう、という風に田坂が総司を覗き込んだ。
総司は首を縦に振ったが、すぐに慌てて横に小さく振った。
否と言おうとも声は出せない。
見れば総司の細い首には真綿が巻かれている。
それを見止めて、土方と八郎が訝しげに田坂を見た。

「昨夜の夜から風邪を引きまして・・今日も本来ならば失礼をしたいところでしたが、伊庭殿のたっての願い、無下にお断りもできずにこうして来ましたが、声を出すことが出来ません」
田坂は少しばかり迷惑だったという風に眉根を寄せた。



実はこれも総司の最後の足掻きだった。

もう駕籠が来るという寸座に、妙案が浮かんだ。
どんなに上手く化けても、自分の首には小さいながらもちゃんと喉仏がある。
これだけは隠しようが無い。女と偽っても必ずばれる。
だから無理だと晴れ晴れとした顔で田坂に訴えると、田坂は頬を緩ませた。
「そのために真綿を用意してある。風邪で喉を痛めていると言えば声も出さなくて良いし一石二鳥だろう?」
言いながら田坂は、低く滑らかな曲線を描いていた総司の喉首に、ふんわりと真綿を巻き始めた。
そしてこのとき総司は真綿で首を締められるという事を、身をもって知った。




「どなたはんもそないな処に立っておられないで、どうぞこちらにお越しやしておくれやす」
はんなりとした京言葉が、梅香の紅色の唇から零れた。

艶やかに微笑む梅香の眸が笑っていなかった。
それを見ながら八郎は、本当に恐ろしいのは女の、他の女の美貌への嫉妬なのだと、改めてひとつ知った。


梅香は立ち上がり四人の前に進み出ると、おっとりと、その実かなり強引に土方の手をとった。

「さぁ、どうぞ」





華やかに、賑やかに、それぞれの思惑をのせた宴が今始まった。










             きりリクの部屋     宴 (下)