掲示板1000御礼     めめさまへ

             
             総ちゃんのシアワセ♪

              一番シアワセ♪ (うえ)



(壱)

ここは五条の橋を渡って少し西に行った通り沿いにある、薬種問屋小川屋さんの店先です。
もうお日様は山の向こうに傾き始めています。
風はすっかり冷たくなってきています。
総ちゃんはそんなことにも気がつかずに、さっきからずっと目つきの極悪な黒いオウムに見とれています。
そのオウムはこの間偶然このお店で見つけたのですが、それはそれは土方さんに良く似ているのです。
がらがらの声はお仕事で徹夜明けの土方さんにそっくりです。
その声で人に向かって『あほー』と言うのです。
そんな時の目つきに悪さと言ったらもう『土方眼』と言って過言ではありません。
おまけにすぐに人の言った事を覚えて繰り返すおりこうさんさも土方さんに似て、総ちゃんには羨望の的です。
総ちゃんは幾度も近藤先生にこのオウムを買って下さいとお願いしているのですが、先生は『そんな愛玩動物がかわいいと言うのは総司だけだよ』と言って聞く耳を持ってくれません。
だからこうして総ちゃんは今日も小川屋さんの店先に来て、じっと恋焦がれるようにオウムを見ているのです。

(・・・かわいい)
総ちゃんは我慢しきれず、そっと手を伸ばしてオウムに触れようとしました。
するとオウムは『ふん』という顔をして、あっちの方を向いてしまいました。
その姿は伊東さんを見下す土方さんそのものです。
『うわぁ・・かわいい』
総ちゃんは益々嬉しくなってしまいました。
そんな姿を店の柱の影からこっそり覗き見しながら、小川屋さんはもう幾度目かの溜息をつました。
『旦那さま、そろそろ店じまいの頃合ですが・・・』
実直そうな番頭さんがそっと近づいて耳打ちしました。
番頭さんも総ちゃんがあんまり熱心にオウムを見ているので、暖簾を片付けるのに邪魔ですと言うのも気の毒で、ちょっぴり困っているのです。
それに・・・実はあのオウムはもう引き取り手が決まってしまったのです。

『仕方がありまへんなぁ・・。わたしが何とかします・・』
小川屋さんは番頭さんに小さな声で言うと、やれやれとういう風に頭を振って総ちゃんの処にやって来ました。
『沖田はん、えろうお気に召されたようですなぁ』
総ちゃんは突然声を掛けられて、びっくりしたように振り向きました。
小川屋さんはその様子を見て、
(何でこんなん優しい形(なり)したお人が、こないにけったクソ悪い愛想も無いオウムに夢中なんやろ・・)
と思いましたが、絶対そんな素振りは見せません。
流石に創業元禄三年薬種問屋小川屋の五代目、なかなかの商い上手です。
小川屋さんの笑い顔にあうと、総ちゃんは下を向いてしまいました。
きっと小川屋さんは毎日店先に来る自分の事が迷惑なのだと、総ちゃんはすぐに思いました。
けれどそれで来るなと言われたらどうして良いのか分かりません。
総ちゃんは小川屋さんの次の言葉を想像して、びくびくしてしまいました。

『実はこのオウム・・・』
小川屋さんはそこでひとつ大仰に溜息をつきました。
総ちゃんは思わず伏せていた顔を上げました。
それを認めて、小川屋さんはさっきよりも余程声を落として言いました。
『去るお公家さまが欲しい、言わはって・・』
更に小川屋さんは困ったような口ぶりで総ちゃんに囁きました。

総ちゃんは頭の中が真っ白になってしまいました。
このオウムが誰か他の人のものになってしまう。
それは土方さんが総ちゃんより他のひとを選んだのとおんなじです。
総ちゃんはそんなことを考えただけでも身体中から血が引いてしまいそうです。
蒼くなって瞳を見開いている総ちゃんを見れば、小川屋さんもとても可哀想に思いましたが、ここはひとつ心を鬼にしなければなりません。
何しろこのオウムは商売仲間の松前屋さんから五両で買い取ったのです。
だから少なくともその倍の値段で売らなければ、小川屋さんも松前屋さんへの意地があります。
お公家さまは良いお客さまだったのです。
この機会を逃したらオウムはどこへも売れないでしょう。

『・・・オウム、売っちゃうのですか・・?』
総ちゃんはやっとそれだけを小川屋さんに聞きました。
小川屋さんは総ちゃんの哀しそうな瞳を見て、何だかとってもいけない事をしているような気分になりましたが、心の中で頭をふりふりと振って、もう一度心を引き締めました。
『すんませんなぁ・・。けど沖田はんのようなお方に気に入って貰えて、このオウムもシアワセでしたわ・・』
小川屋さんはしみじみと言いました。
オウムがシアワセでも、総ちゃんは不幸のどん底です。
思わず小川屋さんににじり寄ろうとしたその時、
『総司、何をやっているのだえ』
二人の後ろに立派な駕籠が止まり、中から聞き覚えのある声がしました。
総ちゃんと小川屋さんが振り向くと、八郎さんがすでに駕籠かきさんへお代を渡しているところでした。

そのまま総ちゃんの横までくると、八郎さんは並んでオウムを見ました。
『誰かに似てるな、こいつ』
八郎さんはとっても嫌な顔をしました。
土方さんと言わないところが、八郎さんの男の矜持です。
『あほー』
オウムはまたまた小ばかにしたように、八郎さんに向かって鳴きました。
『・・こいつ』
八郎さんはそのまま黙ってしまいました。
総ちゃんが恐る恐る見ると、八郎さんは世の中でこれ以上嫌なものを見たことが無いという風に眉をしかめています。
けれど総ちゃんは今そんな八郎さんに構っている暇はありません。
何とかオウムを売らないように、小川屋さんにお願いをしなければならないのです。
『小川屋さん・・・』
総ちゃんが売るのをもう少し待って下さいと言おうとした時、
『これは売り物かい?』
八郎さんが小川屋さんに聞きました。
『へえ、すぐに人の言う事を覚えて真似できる賢いオウムです』
小川屋さんは愛想よく応えました。
『ふぅーん、で、幾らだえ?』
『十両ですわ』
『十両ねぇ・・・』
八郎さんは何やら考えているようです。
そうなのです。
八郎さんはこのオウムを買って、何とかまた土方さんに嫌がらせをしちゃおうと思っているのです。
だいたい総ちゃんがこのオウムをうっとりと見る様子が、殊のほか八郎さんには気に入りません。

『けどもうさるお公家さまにお買い上げ頂くことが決まっていますのや』
そんなことを思っていると、小川屋さんが横から声を掛けました。
八郎さんのこめかみが、ちょっとだけぴくりと動きました。
八郎さんはとても負けず嫌いなのです。
『そりゃ残念だったなぁ』
八郎さんは少しも残念そうな顔をせずに、口先だけで言うと、何やら懐を探っています。
総ちゃんもがっかりしました。
八郎さんが飼い主なら、またこのオウムを見に行くことができると思ったのです。
けれど知らないお公家さまならそんなこともできません。
八郎さんは懐から扇子を取り出しました。
それをぱっと開くと、暑くも無いのに扇ぎはじめました。
小川屋さんはいぶかしげにそれを見ましたが、扇子の柄に気付くと仰け反りました。
何と扇子には三つ葉葵の紋がででーんと入っていたのです。
そんな小川屋さんの様子を、八郎さんはちらりと横目で見ました。
『いや、まったくもって残念。この間頂いたこの扇子の御礼に、上さまにお見せしたらさぞお喜びになるだろうと思ったが・・。縁が無かったと思って諦めるさ』
八郎さんは涼しげに言いました。
小川屋さんは頭の中で、すごい速さでソロバンを弾きました。
そして瞬時に結論を弾きだしました。
お公家さまより上さまに献上した方がこの先商売に何倍も利益がありそうです。
『上さまにお見せするのならばこの小川屋、先のお客様への不義理は何とでも致します。ささ、どうぞお持ち帰り下さい』
小川屋さんはすぐに番頭さんを呼んで、オウムを入れる籠を持ってくるようにと言いました。


総ちゃんはそれをぼんやりと見ています。
このオウムが上さまのものになってしまったら、それこそお公家さまの処に渡ってしまうよりも、ずっとずっと会うことが難しくなってしまいます。
いえ、もうこれきりこのオウムを見ることはできないでしょう。
『あほー』
そんな総ちゃんの心を知ってか知らずか、またオウムが土方さんそっくりの声で鳴きました。
総ちゃんはオウムを見ていられず、俯いてしまいました。
これが今生の別れかと思うとほっぺにひとつ何かが零れ落ちました。
『総司、何を泣いているのだえ?』
八郎さんが総ちゃんを見て聞きました。
総ちゃんは黙って小さく首を振りました。
オウムは上さまのところに行くのです。
総ちゃんの手の届かない、すごく偉いオウムになってしまうのです。
哀しいけれど笑っておめでとうと言ってあげなくてはいけないのです。
総ちゃんは自分に言い聞かせました。
思い切って顔をあげると、あのオウムが真正面から仏頂面で総ちゃんを睨んでいます。
八郎さんが籠を総ちゃんの目の前に突き出していたのです。

『あほー』オウムはまたがらがらの声で鳴きました。
まるで土方さんが総ちゃんを怒っているようです。
総ちゃんはもうたまりません。
『八郎さん、お願いです。このオウムを下さい』
総ちゃんは必死にお願いしました。
『いいよ』
拍子抜けするほど、あっけない応えでした。
ぽかんとお口を開けた総ちゃんに八郎さんは言いました。
『土方さんの一番大切なものと交換ならいいぜ』
『・・・・土方さんの?』
総ちゃんは考え込んでしまいました。

総ちゃんの一番大切なものは土方さんです。
けれど、総ちゃんは土方さんではないので、土方さんが一番大切なものが分かりません。
もしも自分だったらどんなにいいでしょう。
総ちゃんはそう思うと胸がどきどきしてしまいます。
でも、土方さんには大切なものが一杯あるような気がします。
(発句集かな?それとも近藤先生かな・・)
総ちゃんは考えます。
というのも、先日『おまえだけだよ』と言って詠んだ句を寄越しておきながら、土方さんは総ちゃん以外の沢山の女の人にも昔自分の句を詠んであげて居たことが分かってしまったからです。
だから総ちゃんはこのところ、自分は土方さんの一番では無いのだと寂しく思っていたのです。

首をひねって一生懸命考えている総ちゃんを見て、八郎さんは呆れた溜息をつきました。
けれど絶対に本当のことは教えてはあげません。
土方さんの一番が自分だと知ったら、きっと総ちゃんはますます土方さんに夢中になってしまうからです。
そんなことは絶対に許せない八郎さんでした。
ついでに八郎さんは思います。
土方さんの一番大切な総ちゃんを手に入れて、この「いる」というだけでも不愉快な土方さんに似たオウムを土方さんに押し付けることができれば、なんて楽しいのでしょう。
(総司と二人でお江戸に帰る道は東海道にしよう。そして処々で仲良く名物を食べて温泉にも入ろう・・・)
そんなことまで考えると、八郎さんはもういてもたってもいられなくなりました。

『総司、三日の間に土方さんの一番大切なものと交換だ。そうでなければこのオウムは上野広小路の鳥料理専門の鳥八十に売っちまうよ。それがいやなら土方さんの一番大切なものを持ってくるんだぜ』
八郎さんはすでに自分の夢の実現しか見えずに、いつのまにかオウムを鳥質(とりじち)に総ちゃんを脅していることにも気付きません。
総ちゃんは蒼くなって、黒曜の瞳を大きく見開いています。
『じゃあな、待っているぜ』
そんな総ちゃんのお顔もいいな、と八郎さんは余裕で鳥籠を片手に背を向けました。
夕陽の中で去ってゆく八郎さんの手から吊るされた鳥籠の中から、あのオウムが総ちゃんに向かって『あほー』と鳴きました。
それがひどく哀しそうで、総ちゃんの白いほっぺに、またも冷たいものが零れ落ちました。
そんな情景を目にしながら、小川屋さんは「上さまへの献上は?」と思わず八郎さんに駆け寄って聞きたくなった衝動を抑えました。
『世の中には「触らぬあほに祟りなし」という言葉がありますしなぁ・・・』
小さく呟いて、小川屋さんはふりふりと頭を振りました。
その横で番頭さんは『「あほ」にしてしもうたら神さんが怒りますわな』と思いましたが、決して口にはしませんでした。


(弐)

総ちゃんは今新撰組の屯所の廊下を走っています。
みんなが呆気にとられてそんな総ちゃんを見ても、総ちゃんにはもう行くべきお部屋しか見えていません。
総ちゃんは土方さんのお部屋の前に来ると、思いっきり障子を開け放って、びっくりしている土方さんの前にぺたんと座り込みました。
総ちゃんは早くオウムのことを言いたいのに、一生懸命駆けて来たので、はぁはぁと息が切れてなかなか言葉が出ないのです。
それでも総ちゃんは土方さんに詰め寄ると言いました。
『土方さん、土方さんの一番大切なものを下さい』
土方さんは驚いて、総ちゃんをまじまじと見ました。

土方さんにとって、一番大切なものは総ちゃんです。
けれど総ちゃんは自分にその総ちゃんをくれと言っているのです。
総ちゃんが総ちゃんを貰ってどうするのでしょう?
それでは「共食い」になってしまいます。
土方さんは総ちゃんの言っている意味がわからず、唸って考え込んでしまいました。
その時ふと恐ろしいことが頭の中を過ぎりました。

総ちゃんが総ちゃんを返せということは、総ちゃんは自分にさよならをしようと思っているのだろうかと・・・。
土方さんはこれ以上無いという位に慌てました。
昔奉公先の女中さんに手を出したのが、ばれたときの事など比ではありません。
それもそのはずです。
このあいだ総ちゃんに『おまえだけだよ』と言っておきながら、昔の馴染みの女の人達に自分の詠んだ句をばら撒いていたのが、発覚したばかりです。
土方さんの頭は、総ちゃんが怒って別れたいと言い出したのだという結論に達しました。
脛に傷持つ身としては、なかなかに辛い選択です。
でもそんなこと冗談ではありません。
例え天地がひっくりかえって、伊東さんをいい奴だと思える日がきても、このことだけは認めるわけにはゆきません。
『俺の一番大切なものは、俺のものだっ。たとえお前でも絶対にやれない』
土方さんは顔を真っ赤にして怒り出しました。
その土方さんの剣幕を見て、総ちゃんは八郎さんにオウムを連れ去られたときととは比べ物にならない位に哀しくなりました。
オウムは鳥鍋にされてしまいます。
それにも増して土方さんにはやっぱり自分よりも大切なものがあったのです。
総ちゃんは目の前が真っ暗になりました。

神様は残酷です。
こんな時でも土方さんだけはしっかり見えています。
けれどその土方さんもゆらゆら揺れています。
そうなのです。総ちゃんの瞳には一杯の涙がたまっているのです。
総ちゃんの白いほっぺに、ぽろりとひと雫涙がこぼれました。
それを総ちゃんはごしごしと自分の手でふきました。
そのまますっと立ち上がると、総ちゃんはふらふらと、覚束ない足どりでお部屋を出て行こうとしました。

『おい、総司、どこへゆくっ』
土方さんが後ろから腕を掴んでとめようとしました。
でも総ちゃんは俯いてぽろぽろと涙をこぼしているだけです。
『どうして俺の一番大切なものが欲しいんだ?』
そんな総ちゃんを持て余して、土方さんは困って聞きました。
『・・・オウム』
総ちゃんは小さな声で呟きました。
『オウムぅ??』
それと総ちゃんとどういう関係があるのでしょう?
総ちゃんの言っていることは本当に分かりません。
土方さんはとうとう腕を組むと、宙を睨んで考え込んでしまいました。
『・・土方さんの一番大切なものと交換しないと、オウムが鳥鍋になってしまうのです』
総ちゃんは潤んだ瞳で土方さんを見上げました。
もうお目目の白いところは兎さんのように真っ赤です。
『オウムって、あの小川屋のオウムか?』
総ちゃんはこくりと頷きました。

土方さんは再度考えます。
確かにあのオウムは「便利」に使えると思いました。
けれど目つきは最悪だし、声はガラガラだし、それより何よりあの人を人とも思わない見下した態度は、いちど殴ってやろうかと思う位です。
愛玩動物の風上にもおけません。
そこまで思ったとき、猛烈に腹が立ってきました。
誰が言い出したのか知りませんが、そんな最悪なオウムと大事な総ちゃんを交換するということを思いつくこと事態許せません。
土方さんのお顔がみるみる険しくなりました。

『総司、あんなオウムなんざ、さっさと鍋にしてしまえっ』
食っても腹をこわすのがオチだ、と言いながらもう背中を向けてお仕事を始めてしまった土方さんを見て、総ちゃんは呆然と立ちすくんでいます。
総ちゃんの瞳からは、どこにこんなに溜まっていたのかと思うくらいに、涙が零れ落ちます。

『・・・ばか』
つい言ってしまってから土方さんが振り向くのを見て、総ちゃんははっと気づいたように、慌てて自分の口を両方の手でふさぎました。
けれどもう遅かったようです。
『ばか?』
土方さんが聞き返しました。
総ちゃんは後ずさりしました。
土方さんに向かって、「ばか」なんて言ってしまった自分が恐ろしい人間に思えます。
総ちゃんはもう土方さんは、絶対に自分を嫌いになっちゃったと思いました。
総ちゃんは後も振り返らずに口を抑えたまま走り出しました。
土方さんが後ろで何か叫んでいます。
それを聞きながら、もう耳も覆ってしまいたいと思いました。



総ちゃんは柱にもたれて膝を抱えて、周りをぴよぴよと歩き回るひよこをぼんやりと見ています。
泣きつかれて何もする気がおきません。
ひよこは近藤先生がオウムの代わりにくれたものです。
ひよこはお腹がすいたのでしょう、総ちゃんを黄色いくちばしで突付きます。
でも総ちゃんにはその痛みすらわかりません。
頭の中は土方さんのことで一杯です。
胸の中は哀しみで一杯です。
『・・・どうして、ばかなんて言っちゃったんだろう』
総ちゃんはぽつんと呟きました。

総ちゃんにはいつの間にかあのオウムは土方さんそのものになってしまっていたのです。
だから八郎さんに鳥鍋にしちゃうぞと言われた時に、まるで土方さんが煮られちゃうような気がしたのです。
いくら総ちゃんの一番大切な土方さんでも、「土方さんなど鍋にしちまえ」などと言うのは許せなかったのです。
またひよこが総ちゃんを突付きました。
『・・・ぴよちゃんがもっと目つきが悪かったら良かったのに』
総ちゃんは小さな声で言って溜息をつきました。
ぴよちゃんは愛らしいと、みんなが誉めてくれます。
けれど総ちゃんにはあのオウムより可愛いものはありません。

あのオウムはもうご飯を八郎さんから貰ったでしょうか。
総ちゃんはそんなことも気になります。
きっとオウムの土方さんはたくあんが大好きなのです。
オウムの土方さんが、たくあんをぽりぽりと美味しそうにくちばしで突付く姿を想像したらもういけません。
土方さんを見殺しにすることなどできません。

総ちゃんはすっくと立ち上がりました。
オウムに会いに八郎さんの元にゆくのです。
オウムの土方さんを救えるのは自分しかいないのです。
総ちゃんは廊下にでると、駆け出しました。
でも途中で『あっ』と気がついて、ちょうどあったお部屋の障子を、声もかけずに開けました。
将棋を指していた藤堂さんと永倉さんはびっくりしました。
『お願いです』
突然の総ちゃんの必死の形相に、藤堂さんも永倉さんも一瞬ぽかんと見上げました。
『ひよこにご飯をあげておいて下さい』
それだけを言うと、まだ時を止めたままの二人を置いて、総ちゃんはまた走り出しました。


籐堂さんは何も変わったことは起こらなかったのだ、と思うことにしました。
『王手』
容赦なく駒を置きました。
永倉さんはものごとをあるがままに受け止めよう、と思いました。
『ひよこに飯をやって来る』
ごく自然に立ち上がりました。

ぴよぴよ♪手を袖の中に縮めて、楽しそうに口ずさみながら揺れる背を、藤堂さんは心のなかで「あほー」と思いながら見送りました。









         瑠璃の文庫      一番シアワセ♪(した)